プラスチックの“前”の素材

私たちの暮らしとプラスチックについて」の記事ではプラスチックに替わる新素材や、使用を減らす工夫について考えました。今の生活には、あって当たり前の便利な素材「プラスチック」。では、そもそもプラスチックが存在していなかった時代、それらは何で出来ていたのでしょうか。プラスチックに替わる新素材同様、プラスチックの前の素材も再度利用していければ…。今回はプラスチックの前の素材について調べていきます。

少し前の日本の生活道具

第二次世界大戦後、プラスチック市場が拡大していったといわれています。それ以前、プラスチックが台頭する前の素材を調べてみると生活道具は木の素材のものが多く使われてます。なかでも「竹」は日本人の生活の色々な道具に利用されていました。

今回はプラスチックの前の素材「竹」について調べてみました。

【伝統的な竹を使用した道具】

  • 建築材料 :家屋の土壁の下地や外装、内装材、垣根
  • 文化道具 :華道、茶道の道具、習字の筆、笛や尺八、竹刀、弓、扇子
  • 生活道具 :ざる、お弁当箱、器、傘、正月飾り、七夕、提灯、物干竿、花器、遊び道具
  • 農漁業道具:背負いかご、牡蠣養殖の筏やノリ養殖の竹建て

ここに挙げたもので、伝統的な行事や習い事などで使う「文化道具」では現在も多くは竹が使用されていますが、その他のものの主流はプラスチックや他の素材に替わってしまったものがほとんどですね。

どうしても他の素材でなくても良いものは、また竹に戻してみてはどうでしょうか。

竹とは?

「日本人と竹との関わりの歴史は古く、縄文時代の遺跡から竹を素材とした製品が出土していて、古来より竹を有用な植物として利用してきたことがうかがわれる。」と林野庁HPに出ています。竹は身近な素材で、竹を使用した製品は誰もが手にした事があると思いますが、芽であるたけのこが食べられたり、成長すると中身が空洞になっていたり、不思議な植物ですよね。竹についてもっと調べてみましょう。

【竹の種類と性質】

竹の種類は全世界で1,300種類、日本には600種類も生息すると言われています。

≪日本の代表的な竹の種類≫

  • 真竹(マダケ) 弾力性があるなど優れており、建築や竹細工に利用されている。
  • 孟宗竹(モウソウチク) 弾力性に欠け、建築や農漁業用資材として利用されている。
  • 淡竹(ハチク) 細く割りやすいという材質から、茶筅などの茶道用具に利用されている。
  • 女竹 (メダケ)やわらかくねばり強いので、竹細工や農業資材などに利用されている。

竹は、常緑性の多年生植物であり、毎年地下茎の節にある芽子から新しい竹を発生させ、わずか数か月で立派な竹に生長するという特徴があります。1日にマダケで121cm、モウソウチクで119cm伸びたという記録があるそうです。

そういえば、日本最古の物語「竹取物語」のかぐや姫は、竹取の翁が見つけたときは三寸((約9cm)だったのに、たった3か月で成人となりました。成長速度は竹と合わせてあったのですね。

また、すべての組織が軸方向に平行に並んでいるため、繊維方向に強度があり、しなやかで折れにくい性質をもっており、木材とほぼ同様の成分で構成されているそうです。成長が早く、しなやかで折れにくい性質が様々な道具を作るのに適しているのですね。そして種類によっても材質に違いがあり、それぞれの種類の竹が、何を作るのに適しているのかを探し出しだ先人の細やかさと知恵と努力には感服してしまいます。

【竹の効能】

竹は抗菌作用が強い植物で、竹の皮や笹はおむすびを包んだり、笹かまぼこや竹の水筒など、食品の保存目的に使用されてきました。竹炭などの商品もあるように、消臭効果もあるようです。笹の葉の漢方などもあり、昔から人々の生活に深くかかわってきたことが分かります。

【旬の味覚「たけのこ」】

春を感じる食材、竹の芽であるたけのこ。私たちが普段食べている種類は孟宗竹だそうです。孟宗竹より時期が遅い細いたけのこの淡竹は、掘らずに地上に出ている部分を刈り取ります。ということは、「たけのこ堀り」とは孟宗竹の事をいうのですね。

余談ですが、たけのこを食べる動物は人間だけではありません。イノシシ、サル、シカ、ウサギ、ツキノワグマ、ジャイアントパンダ、レッサーパンダ等。また、笹はジャイアントパンダやレッサーパンダが主食としていますが、ツキノワグマも狩りの前に笹を食べて体臭を消すのだそう。人間だけでなく熊も竹の効能を上手に使っているようです。

竹を調べてみると、昔から私たちの生活を豊かにしてくれた植物だということが分かりました。では現在の竹が置かれている状況はどうでしょうか。

竹林が抱える問題

現在、日本各地の竹林では、竹の使用量が減った為、整備不足によりさまざまな問題が起こっており、早急な対策が必要なようです。

かつては多くの需要があり、人の手で植えられ管理されいていた竹ですが、竹製品やたけのこの輸入が増えたこと、竹製品がプラスチック製品に代わったことによって国産の竹の需要が減り、竹林が放置されてしまうようになりました。スーパーで売っているたけのこも中国産を多く見かけますね。

昭和50年代まではきちんと管理されていた竹林が多かったのですが、竹の需要低下と生産者の高齢化や後継者不足なども竹林の放置問題を加速させたようです。荒れた竹林が増えたことは、竹林の抱える大きな問題となっています。

特に西日本におけるこの状況はとても深刻で、竹は周囲の森林にも地下茎を伸ばして拡大し、元の植生を衰退させてしまうので、竹林だけの問題ではなく、森林全体の問題と考えなくてはなりません。また、竹は根が浅く、管理されていない竹林は自然災害を引き起こす事もあります。

元々は生活に必要で、上手に利用していた竹。厄介者なんかではないはずですよね。森林環境の為にももう一度、竹の有効利用を進めていかなくてはなりません。

これからの竹の有効利用

林野庁HP「竹の利活用推進に向けて 第5章 竹利用の方向性」では、今後の竹の利用方法について、現在の技術レベルで可能性のあるもの、また今後の展望についても記されています。先にあげたような文化的な利用にも増やしつつ、新しい利用方法を開発していくことが大切です。

また、竹林の整備及び竹の利用においては、国による様々な対策や支援も行われており、令和3年度に「林野庁における竹林及び竹材利用に係る対策(令和3年度)」として示されています。伐採、搬出にかかるコストをさげて、大量利用出来るようにすることが課題のようです。この伐採、搬出にかかるコスト低下への課題には、多くの個人や企業、団体が取り組まれています。そして、竹は他の木と違い、たけのこを食べられるという利点もありますので、国産たけのこの需要を伸ばすことも竹林放置の解決につながりますね。

最後に、新しい利用方法として、「たけのこ」ではなく「竹」を食べるという取り組みをご紹介します。

竹の粉を使ったガレットがある事を知り、早速購入し社内でいただきました。

Bamboo Galette 竹害から生まれたガレット」LIFULL

では、地球の新たな食材を見つけるプロジェクトとして、放置竹林を食べるという新たな用途を開発されています

上に乗っている緑の粉は笹のほろ苦い味がしました。クッキーの部分はバターの風味とサクサク感が絶妙で、甘さ抑えめのとても上品なおやつです。パッケージも竹筒となっていて、見た目もコンセプトどおり「竹害から生まれたガレット」。手土産としてプレゼントしたくなる素敵さと美味しさでした。竹が害ではなく、ひとつの食材となる新しい取り組みだと思います。

おわりに

子どもの頃、夏休みに田舎のおじいちゃんの家へ遊びに行くと、竹で作った流しそうめんを用意してくれたことがありました。竹を半割りにして3m程の長さで流し、つゆを入れる器も竹、大人達はビールも竹のコップで飲んでいました。そうめんは美味しかったけど、朝早くからせっせと作ってくれ、終わると惜しげもなく折られて庭の隅に積まれた竹を見て「なんだか勿体ないね」と言うと、「来年また作ればいいよ、竹はすぐ大きくなるからね」と笑われたことを覚えています。あの頃、田舎の人は自然の素材の特性を良く知って、賢く楽しんで活用していたのだなと思います。もう一度、竹を賢く利用することは、私たちの生活や心を豊かにしてくれるのではないかなと思います。

(参照)林野庁 「竹のはなし」

(参照)林野庁「林野庁における竹林及び竹材利用に係る対策(令和3年度)」


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